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2021-02-24

ダブルハンドレースを目指すセーラーへのメッセージ(海外の記事から1)

文:児玉萬平氏

ダブルハンドレースで勝つ方法‐チャンピオンによる5つのヒント」このような表題の記事が出たのは2018年9月7日 Yachting World誌でした。
2024年パリ五輪に外洋艇競技として男女ミックスのダブルハンドレースが採用され、本年もワールドカップの開催が予定されていることから急速にその関心が高まっています。またそうした流れを受けて、わが国でも5月連休にはJSAF主催の初めてのダブルハンドクラスの日本選手権が行われることになりました。
2018年当時、すでにヨーロッパではダブルハンドレースの人気が急上昇しており、インショア・オフショア双方のイベントでダブルハンドクラスが導入されました。主にIRCのレースが主体でしたが、ORCでも本年度(2021)シーズンからダブルハンド・チャンピオンシップを開催することになっています。
という事で、これからダブルハンドレースを目指そうという方の参考として、このヨッティングワールドの記事を転載しご紹介したいと思います。 

ダブルハンドレースで勝つ方法

―チャンピオンによる5つのヒントー ヨッティングワールド

Yachting World - 09.2018
Race Start – Redshift Reloaded, Sail No: GBR 419, Class: IRC Three, Owner: Ed Fishwick, Type: Sun Fast 3600

ダブルハンドセーリングの人気が高まっています。今年(2018年)、カウズウィークでさえ、初めてダブルハンドカテゴリーを設け、ダブルハンドセーラーのためにブイ周りのインショアレースを行いました。では、なぜダブルハンドレースがこれほど大きな流れになっているのでしょうか。

ダブルハンドレースに勝利するために、ボートを準備し日常を組み立てる方法について、そのエキスパート Alexis Loison(アレクシス・ロワソン)からヒントを貰います。

アレクシス・ロワソンは、「フィガロ」サーキット(訳者注1)に定期参戦するプロのセーラーですが、彼はまた、ロレックスシドニーホバートレースの優勝クルーの一員でもあります。しかし彼が最大の名声を得たのは、2013年にアレクシスと父親のパスカルがJPK1010 「Night and Day」(訳者注2)でロレックスファストネットレースに出場し、優勝した初めてのダブルハンドセーラーとなった時でした。しかもフルクルーも含めた彼らのクラスだけでなく、総合優勝をも果たした時です。

アレクシスによると、さまざまなレベルの技量を持つ7人以上のフルクルーをまとめるよりも、2人で準備や組み立てをする方がはるかに簡単だと言います。また、オートパイロットの進化により、ショートハンドのボートの取り扱いがはるかに簡単になりました。(訳者注3)しかし、アレクシス・ロワソンにとってのダブルハンドレースの主な魅力は、退屈な瞬間が決してないということです。ひと時も何時間もサイドレールに座ってはいられません。 「ダブルハンドでセーリングしているときは、舵を取り、ナビゲートし、すべての操作に没頭します。退屈な瞬間はありません。」

では、ダブルハンドレースを成功させるためのアレクシスの5つのヒントは何でしょうか。

フィニッシュしたアレクシスと父のパスカル ファストネットレース2017
フィニッシュしたアレクシスと父のパスカル ファストネットレース2017

1.パートナーシップを築く

あなたが好きで尊敬している人とチームを組むことは本当に重要です。 セーリングとレースへの取り組み方についても共通の見通しが不可欠です。 私の場合は父以外に、これ以上の共同スキッパーを見つけることができませんでした。 彼は私を最もよく知っている人であり、それは非常に重要でした。

初めて誰かとチームを組むときは、港を出る前にお互いがすべてを詳細に話し合っていることを確認してください。 コミュニケーションの仕方、役割分担、予想される天気、事前に考えられるすべてのプロセス、その場合に採用すべきシステムについて合意しておきます。 日常の決まり事をこなすことは不可欠な事です。

「Night And Day」 JPK 10.10 ファストネットロックを回航する
「Night And Day」 JPK 1010 ファストネットロックを回航する

2.適切なボートを選択します

私はクラス40が大好きです、それらは速くて強力なボートです。 しかし、ダブルハンドでのレースの場合は、それら(2トンクラス相当のボート)はそれほど楽しいものではありません。 ギアが大きく、ボートはある意味で強力すぎるかもしれません。乗り手がコントロールしているのではなく、ボートが乗り手をコントロールしているように感じることがあります。

私が父と一緒にセーリングするJPK1010のような33フィートのボートは、私のお気に入りのサイズのボートです。 セールチェンジが簡単にできる程度の大きさです。 それを私は「人間サイズの」ボートと呼んでいます! もちろん、ボートがすべての答えではありません。 どちらを選んだとしても、自分のボートを本当に知って、すべての操作を練習して、何をすべきか迷わないようにすることが重要です。 例えば真夜中に急激に風が強くなる場合など備え、あらかじめ準備ができている必要があります。

3.ツインラダー

総合優勝したファストネットでは、他のJPK1010とのマッチレースの様に感じました。他艇はフルクルーであったことを除けば、私たちとほとんど同じ艇です。双方ともすでに25ノットの風を受けていましたが、他艇の方が風上のレールに座るクルーの体重が重かったのにもかかわらず、私たちのボートの方が直線で速く走りました。

どうしてか? 私たちのボートはツインラダーであり、彼らのはシングルラダーだったからです。 私たちが一度もスピンを破綻させなかったのに、彼らは多くのブローチングに苦しみました。ツインラダーを使用すると、安定性と制御性が大幅に向上します。これは、ダブルハンドレースをするときにオートパイロットにどれだけ依存しているかを考えると、さらに重要な点です。 ツインラダー艇は明らかにシングルラダーよりも優れています。

4.最悪の事態に備える

大きなレースの前には、私たちは多くの天候に対する準備をします。 GRIB(気象予報データ)ファイルを詳しく調べ、すべての潮流を分析します。 これらにはAdrena(ルーティングソフト 訳者注4)を使用しています。これは、ナビゲーション計画を支援するための非常に優れたツールです。 レースのさまざまな部分の要点をまとめた小さなルートブックを作成します。

また、セールが壊れた場合にどうするかなど、最悪のシナリオについても話し合います。 安全計画に細心の注意を払い、ライフジャケットやライフラフトなどを再確認します。パーソナルAISシステム(訳者注5)と2つの機能を備えた小型のワイヤレスリモコンがあります。 機能の1つは、これを使用してオートパイロットのコースを変更できます。 2つ目の機能は、落水した場合、リモコンは自動的にMOB(落水者)の位置をコンピュータに登録するものです。

ダブルハンドとフルクルーのヨットが入り乱れてのスタート ファーストネットレース2017
ダブルハンドとフルクルーのヨットが入り乱れてのスタート ファーストネットレース2017

5 荒天時のジャイブを乗り切ること

ダブルハンドセーリングでは、強風下のジャイブが最も難しい操船です。私たちはいつも同じ手順に従って行います。

まず、我々が使用するのはシングルポールですが、スピンネーカーにはダブルシート(ガイとシート)を両舷にセットします。

1.私はステアリングを握り、私の父は1番(この場合はピット)を担当します。ボートをオートパイロットに任せるよりも、自身でヘルムをとる方が安全だと思います。

2.トラックの中央にメインセールトラベラーをクリートします。

3.シートを引き込み、ロープにマークしてあるジャイブの「標準位置」に合わせます。この時点で、シートのクリューはフォアステー近くに位置しています。左右のツイーカーは、ライフラインの上より内側に等距離にセットします。

4.ポールのダウンホール(フォアガイ)を引いて(ポールトップを)大幅に緩め、ボートが波に乗ってうまくサーフィンしたら、新しいシートを手に持ってボートをジャイブします。そうすることで、スピンネーカーとボートを安定させるためにシートを調整することができます。明らかに荒天時のジャイブはボートが大きい場合にはもっと困難な作業です。さらに強い風の場合は、私の父がシートをハンドリングして私を助けることになります。

5.ボートが安定していることを確認してから父は反対側にポールを送ります。私の手元にガイとシートがあるのでストレスはありません。私はまた彼の作業が終了するまでシートをホールドしたままにします。

記事終わり

訳者注1 「フィガロ・サーキット」

ベネトウ社製10.15mのワンデザインヨット「フィガロ」を使用した年間シリーズで、現在は2017年に進水したフォイリング艇Figaro3が使用されている。非常にハイレベルなソロレガッタであるフィガロレースを含む多くのイベントが開催され、現在このサーキットには35人がランキングされておりヨーロッパのトップオフショアセーラーが凌ぎを削っている。2024年パリ五輪ではこの中から勝者が出る可能性が高いと思われる。因みにアレクシスは現在17位にランクされている。

訳者注2 「JPK1010」

32’10”ft.のレーサークルーザー 2010年進水 設計者:Jacques Valer 建造:仏JPK Composite

ヨーロッパのIRCレース界でこの10年で最も成功した小型プロダクションボートの一つと言われている。扱いやすいことからダブルハンドでの参戦も多く、2019年のRORC TRANCE ATRANTICレースでも優勝を果たしている。建造数が少ないせいか、評判のわりに日本で紹介される機会が無く、知名度も低い。

訳者注3 「オートパイロット」

わが国ではレース中にオートパイロットを使用してはいけない、RRS52(人力以外の使用を禁止)違反になると言われ続けてきた。JSAFがIRCの採用を決めた折にIRCテクニカルディレクターのマイク・アーウィン氏が来日、講演会が催され、様々な質疑応答の中でオートパイロットの使用の可否を尋ねたところ、ヨーロッパでもセーリング人口が減りショートハンドレースの普及が叫ばれている、オートパイロットの使用は当然の流れ、問題はない、との回答であった。一方、ORCではRRS52の除外規定にオートパイロットの使用を記述していなかったが、本年(2021)のルール変更ではSIに規定することで認められるようになった。

訳者注4 「Adrena」(アドレナ)

ルーティングソフトではExpeditionなどが有名だが、アドレナは主にヨーロッパのレースシーンで使われる最もポピュラーなソフトだ。大洋横断レース用のRange Proからレース用のRange Standard、クルージングセーラー向けのRange Firstがあり、気象データGribや潮流データTidetec、艇のポーラーデータなどを取り込んで最適ルーティングをシミュレートできる。アレクシスはダブルハンドレースではスタート前に十分にこの作業を行っていくことが重要と語っている。

訳者注5 「パーソナルAISシステム」

OSR(外洋特別規定)4.22.1b)ではカテゴリー2以上のレースでは個人用携帯AISを装備することを求めている。ダブルハンドでMOB(落水)が起きた場合、残った乗員が艇のAIS表示装置を頼りに自らがMOBの素早い救助を行うよう求める狙いがあるだろう。ところが、わが国ではパーソナルAISで総務省の認証を持つ製品が無いのが現実だ。JSAF安全関係者から総務省に対する早急の働きかけを期待したい。

次回はダブルハンドレースに「ファーリング・ジブが必要か?」(海外の記事から2)というテーマで興味ある記事を紹介します。

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