toggle
2020-07-13

JORA虎の穴レポート(mini6.5編)【高頭正史】

皆さん、こんにちは。
国内で活動されているJORA関東練習生チームの高頭さんから先日行われたmini6.5での練習レポートが届きました。
新型コロナウイルス感染症拡大による自粛期間があり、約半年間の活動停滞期間を余儀なくされましたが、今回は北田代表も参加して良いトレーニングができたようです。JORA虎の穴レポートお楽しみください。
文:高頭 正史氏
高頭氏

高頭正史氏

新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急事態宣言が5月末に解除となり、世の中が動き始めた6月某日。昨年末のシーズンオフからそのまま自粛期間に突入し、約半年間の停滞を余儀なくされた我々JORA関東練習生チームも活動を再開しました。我々は、東京湾最奥の浦安マリーナをベースに、JORA北田代表所有の貴帆mini(Pogo2/Mini6.5)で、普段は練習生同士で活動しています。今回の「虎の穴」は、今年の欧州のレーススケジュールがコロナの影響で白紙となり、国内待機を余儀なくされた北田代表が、その鬱憤を晴らしながらも練習生の習熟度を確認してみよう、という趣旨で企画されました。

欧州を舞台に、並み居るプロセイラ―を相手に厳しい戦いを重ねてきた、生けるレジェンドから直接稽古をつけてもらえる貴重な機会とあって、気合十分で浦安マリーナに向かいますが、空模様は朝から生憎の雨。ハーバー到着までに雨は上がったものの、頭上には鬱陶しい梅雨空が広がり、クラブハウス内の東京湾海上の予報によれば本日の風は南東の微風~軽風。「練習生に強風のジェネカーランを経験させたい!」と意気込んで臨んだ北田代表も、若干肩透かしを食わされた格好です。しかし、半年ぶりの出航となる我々練習生にとっては、結果的にベストのコンディションとなりました。

9時40分ドックアウト。頼りなげな南東風の中を捉えつつ、本船をかわしながら、クローズホールドでタックを繰り返して、ジェネカーランのための高さを稼ぎます。

mini6.5の下架。約半年ぶりの活動

mini6.5の下架。約半年ぶりの活動

ジブを上げて高さを稼ぎに行きます。

ジブを上げて高さを稼ぎに行きます。

「この風ならどんな失敗しても船が壊れることはない。思い切ってやって!」とは出航時の代表の言。今日は口も手も出さず、オブザーバーに徹するようです。確かにこの風域であれば、たいていの失敗はリカバリーがききます。普段から「壊したら皆で直せばいい。」と言ってくれている代表ですが、やはりオーナー不在で練習生のみで出航するときとは、気持ちの持ちようが違います。船を壊さないように、大切に乗ることは大前提ですが、船を壊すことを恐れてチャレンジしないのであれば、オーナーがこの艇を練習生に提供している意味がなくなります。自分の技量を見極めつつ、積極的にチャレンジするという当たり前の姿勢を再確認できました。代表の言葉に甘え、いつもより少しだけ思い切って操船することを密かに誓います。

現在はClass40を主戦場とする北田代表ですが、元々ショートハンドの入り口は、この貴帆miniです。この船については隅から隅まで知っています。普段の練習時に気になっていた細かな疑問点について質問すると、具体的かつ実践的な助言を返してくれます。今まで練習生同士の練習では暗中模索の部分も多かったのですが、疑問点が解決すると、色々なところが繋がって、船に対する理解が深まりました。

さらに、一つ一つのクルーアクションについても都度的確な評価が飛んできます。タックが決まった時に代表から「Good!」という声がかかると、それだけでテンションが上がります。ジェネカーランで爆走する、というこの日の目論見は外れましたが、ショートハンド外洋レースの第一人者の見守る中、余裕を持ったコンディションで一つ一つの動作を確認する、というそれはそれで非常に贅沢な時間となりました。

「mini6.5はディンギーみたいなものだから。」と代表は常日頃から言います。そりゃ、Class40で大西洋横断レースしている人にしてみたら、mini6.5なんて本当にディンギーみたいな感覚なんだろうな、と漠然と考えていたのですが、その言葉の真意が、今回少しわかった気がします。

薄く固く軽いハル。大きなセイルエリア。素直なヘルム。この風域であれば最後の一引き以外にはウインチを必要としないシンプルかつ必要十分な艤装。目の届く範囲にすべてがあるのでトラブルの芽が発見しやすく、コックピット内から一歩で各コントロールロープに手が届くので、何かあっても即対処可能。ベイビーステイや3ポイントリーフまで備える本格的な外洋仕様のキールボートでありながら、船のコントロールは自らの手の中にちゃんとある、という感覚。この感覚が「ディンギーみたいなもの」という表現につながるのでしょう。この船で舵を握っていると、自然と、このまま遠くに行きたいな、とか、この船で大島レースに出たら面白いだろうな、とか、そういう気持ちになります。フランスで外洋レースの登竜門としてこのmini6.5クラスが定着しているのも頷けます。フランスの若手外洋セイラ―達は皆、この船と戯れながら、たくさんの小さな失敗と、その対処法を積み重ねることで経験値を上げ、ショートハンドで外洋レースを戦う方法を学んでいくのでしょう。国内でこのクラスが普及したら、もっと多くの若いセイラ―が外洋レースの世界に入ってくるのかな、とも思います。

2時間ほど上ったところで、バウダウン。待望のジェネカーを揚げます。軽風ではあるものの、大きいジェネカーはしっかり風を掴み、船を滑らせていきます。慣れないジェネカージャイブというものに苦戦しつつ、しかしこの風であれば多少セイルを潰そうがシートの引き込みが遅れようが船が止まろうが深刻な事態には陥りようもなく、ジャイブを繰り返しながらジェネカーと思う存分戯れることが出来ました。もう少し吹いていたら、ここまでどんどんジャイブしよう、という気にはならなかったかもしれません。このコンディションと出航時の代表の言葉に改めて感謝。マスト前に陣取って何やら撮影しだした代表からは相変わらず的確なアドバイスがタイミングよく飛んできます。

ジェネカーラン

ジェネカーラン

伊藤望氏とジャイブ練習

伊藤望氏とジャイブ練習

午後になっても風が吹きあがることもなく、曇り空の切れ間から日差しものぞき、気温も徐々に上昇してくる中、13時50分無事にハーバー帰着。充実した練習後の満ち足りた気分で解装しつつ、今後の整備項目を整理し、半年ぶりの出航にも機嫌よく帆走ってくれた貴帆miniちゃんのデッキを真水で洗い流します。最後に、平日の人気のないクラブハウスに戻って今後の活動の方向性について濃い内容のミーティングをして、解散となりました。

帰着後の水洗い

帰着後の水洗い

今回の練習を通じて、改めてこの船の良さを認識し、この船との距離を縮められた気がします。mini6.5には、外洋キールボートの操船に必要なことが詰まっています。この船を手懐け、外洋レースに出たいという気持ちが強まりました。「強風のダウンウインドなら、フルクルーの40ftにも負けないよ。」という代表の言葉が蘇ります。

ご多忙の時間を縫って、機会を作ってくださった北田代表にあらためて感謝します。次回は「強風下のダウンウインドをでかいジェネカーを張ってかっ飛ぶ。」または、「mini6.5で保田のばんやの海鮮丼を食べに行く。」をテーマに第2弾・第3弾を企画したいと思います。

高頭 正史:千葉県出身。JORA国内活動セーラーとして現在トレーニング中

詳細はこちら→ Sailors 高頭 正史

JORAの国内会員としてmini6.5でのトレーニングを「JORA虎の穴」としてシリーズでお届けしていきます。

ほかの記事を読む